Eon

Back to Arctic    Back to Home  Back to 北極海航路
 
拓かれる北極海航路 The Northern Sea Route

◆NSR開放宣言後の北極海航路
 1987年のゴルバ チョフ大統領によるムルマンスクでのNSR開放宣言後,西側資本による最初のNSR商業航行は,1989年にハンブルク港から千葉港に金属貨物14千トン を輸送した航海であった.この航海はドイツのDetlef von Appen 社がロシアのSA-15型氷海貨物船Tiksi号をチャーターし,7月12日にハンブルク出航,8月4に千葉港に到着した.このハンブルク~日本間の海上 輸送は,1990年にはさらに6航海が運航された.
1991年には,同じくソ連船がノルウェーから香港に10千トンの金属貨物を輸送した.これがNSRを使ったノルウェー/アジア間の初めての航海となっ た.1991年も同様にして,引き続き外国貨物の輸送が行われ,全部で15航海,210千トンの外国貨物が輸送された.また同年には,フランスの観測船 L’Astrolabeが,1940年以降,西側の船として初めてNSRを西から東へ横断した.
 1993年には,フィンランドとロシアの共同試験プロジェクトにて,外国船により,シベリアへの石油燃料輸送が実施された.これは,フィンランドにおけ る氷海船級の最高クラス(4A-Finnish/IA-Super)の16,000DWTタンカーに,ロシアの氷海水先案内人が乗船し,3回実施されたも のである.石油燃料は白海のアルハンゲルスク港で積み込まれ,ラプテフ海にそそぐヤナ川河口まで運ばれ,そこで小型船に積み替えられて上流地域に輸送され た.この年は10年に1度という氷況の厳しい年であったため,4隻の原子力砕氷船が主としてディクソンからハタンガ(Khatanga)間の航路維持・航 行支援にあたった.1987年以降ここまでで,上記以外にもNSRを通じて,複数回の外国貨物輸送が行われた.


 NSR航路図
図1: 北極海航路


 NSRで輸送された貨物量は,1987年の6,600千トンをピークに以降は減少を続け,一時は1,400千トンまで下がった.これら貨物のうちの多くは,ムルマンスク~ノリル スク(ドゥディンカ経由)間のものであった.また,輸出品はニッケル鉱および材木で,主としてカナダ向けであった.しかし1998年以降は,石油・天然ガス輸送の増加によって回復基調に転じ,2007年には220万tまで回復したところである.

表:NSR輸送貨物量 (unit : thousand tons)


1960
1970
1980
1987
1990
1991
1995
?1997?
2007
NSR貨物量(103ton) 1,013
2,400
4,951
6,579
5,500
4,900
2,362
1,400
2,200
  • シップ・アンド・オーシャン財団 :“北極海航路,東アジアとヨーロッパを結ぶ最短の海の道“,2000.
  • Mulherin N., Sodhi D. and Smallidge E. :  “NORTHERN SEA ROUTE AND ICEBREAKING TECHNOLOGY, An Overview of Current Conditions”, CRREL US Army Corps of Engineers, 1994.
  • Jan Drent : “COMMERCIAL SHIPPING ON THE NORTHERN SEA ROUTE” The Northern Mariner/Le Marin du nord, III, No. 2, pp1-17.,1993.

◆国際社会の動きとINSROPプロジェクト

 1987 年のNSR開放宣言の後, NSRの運航,氷海航行船舶の建造,北極圏の天然資源の開発,港湾や関連施設の整備など,NSRの啓開を契機とした新しい事業に対する国際的な関心が高ま り,北極海域の研究推進およびNSRの実現を目標として,いくつかの国際的な組織が発足した.中でも代表的な組織・プロジェクトがThe International Northern Sea Route Project (INSROP)である.

  < Sorry !! 本項,執筆中 >


◆注目され始めたNSR
拡大する海上輸送:
 1990年代以降,世界の海上物流において,アジア発・着の貨物量が急伸し,2008年にはアジアにおける荷積み貨物量は世界全体の40%,荷降ろしの 貨物量は同じく51%を占めるまでになった1).このアジアを起点・終点とする海上物流は,2008年に始まった世界的な経済危機をのりこえ,アジア地域 のGDP拡大を背景に増大を続けている.

欧州・アジア間航路の安全と保険コスト:
 現在,アジア・欧州間の主要な海上輸送ルートは,スエズ運河または喜望峰を通過しマラッカ海峡を通るものとなっている.このルートには,紅海の出口のア デン湾・ソマリア沖海域および,マラッカ・シンガポール海峡というチョークポイントが存在し,前者は海賊問題,後者は海賊問題と複雑で狭小な航路という問 題を抱える.2009年,アデン湾・ソマリア沖での海賊事件は世界全体の50% (217件)を占め,日本関係船舶ではソマリア沖1件,マラッカ・シンガポール海峡1件の海賊事件が発生した3).海賊問題は,船員と貨物船の安全,貨物 の安全かつ安定的な輸送を脅かすだけでなく,海上輸送保険コストの増大にもつながっている.実際,2009年より,我が国の損保会社はソマリア沖・アデン 湾地域の通航に対する保険料を増額した.また,船舶戦争保険や船舶運航障害保険などの加入も増大しており,保険コストが増大している.このように海賊問題 は,世界の工場となったアジア地域の産業にとって大きな懸念になっている.

北極海の天然資源:
 2008年,USGS(アメリカ地質研究所)は,北極圏における石油・天然ガス・天然ガス液(NGL)の可採埋蔵量は,世界の未発見の可採埋蔵量の 22%にのぼるという情報を発表し,大きな反響を呼んだ(USGS, “Circum-Arctic Resource Appraisal: Estimates of Undiscovered Oil and Gas North of the Arctic Circle”, 2008.).これは,新たな資源埋蔵量の出現に対する注目ということだけではなく,北極海の夏期における海氷勢力減退が顕在化し,かつエネルギー資源価 格も高止まりした状態にあって,北極海の天然資源開発に対する現実的な可能性を想起させたためである.特にこれら資源の約80%がロシアの沿岸・大陸棚に 分布していることから,ロシア・北欧諸国からの関心が高まっている.加えて,エネルギー資源の多くを輸入に依っている日本・中国・韓国からの関心も高まっ ている.

注目されるNSR:
 このように,豊富な物流需要を背景に,アジアと欧州間の海上輸送においては,航路短縮効果と安全保障上のメリットから,新たな物流ルートとしてNSRへ の関心が高まっている.航路短縮は,傭船料や燃料費の削減をもたらし,燃料価格高騰と海賊対策としての保険負担が既存航路のコスト増を誘引しており, NSRの利点を助長している.また,北極海の海氷勢力の減退によって,NSRの抱える難題が緩和されることになり,特に夏期の運航において,NSRの利点 が増大している.こうした背景から,2009年以降には,中国がNSRを通じて鉄鉱石やガス・コンデンセートを輸入するなど,活動を活発化している.また 現在,ロシアはカラ海での石油・天然ガス開発を積極的に推進しており,開発機材および生産物の輸送手段としてNSR西側航路の運航が活発化している.
 2005年,米国Institute of NorthはフィンランドのAker Arctic社に委託して,アリューシャン列島のAdakをハブ港としてアイスランド間をNSRで結ぶコンテナ・ルートの検討を実施した.その報告では, 2005年当時のスエズ・ルートのコンテナ当たり輸送費1,500USDに対し,新造750TEU氷海コンテナ船による夏期輸送費は1,244USDと なったという(M. Niini, M. Arpiainen and R. Kiili, “Arctic Shuttle Container Link from Alaska, US to Europe”, 2006.).その後,コンテナ運賃は2008年にかけて上昇したあと急落・低迷していたが,2010年になって回復し始めている.ドライルクでは, BDIは2008年後半に向けて高騰したあと急落し,現在は2006年当時の1/2,2008年のピークの1/8である.NSRの採算性は,こうした海運 マーケットの動向に左右されるため,NSRの評価は,その時々の環境で変わりうる.2011年初頭時点では,輸送運賃が回復基調にあること,燃費が依然と してコスト圧迫要因となっている点で,今後,その利点が拡大する可能性がある.


表: 各国のNSRに関する動向

動    向

実    績


  ロシア

NSR局を設立,管理組織・法制の整備.
NSR
活用促進,老朽砕氷船の更新着手.
海氷情報体制強化.
北極圏の資源開発推進.

・砕氷船エスコート:20103回実施,20118航海以上の予約(国際貨物輸送).

・アジポッド砕氷貨物船にて通年輸送(ニッケル/コンテナ).2010年,同型船にてムルマンスク/ブサン/シャンハイ/ナホトカを往復運航.

   ノルウェー

キルケネスをハブとして,バルク・ターミナルを計画.

鉄鉱石をキルケネスから中国に輸送(2010)


   アイスランド

ハブ港を目指す.USAと協働.


   フィンランド

Aker Arctic社がダブルアクティングハル・アジポッド砕氷貨物船を建造し,ロシア(ノリルスク・ニッケル社)に納入.


  USA

アリューシャンのアダクをハブに,アイスランド間ルートによるコンテナ輸送構想.


  カナダ

NWPの航行管理・支援体制を充実.

Pevekの金鉱開発への機材輸送にNSR活用.


  日 本

北極評議会オブザーバー参加申請.日本北極海会議開催(OPRF),外務省タスクフォース.しかし動きは・・・?.

INSROP/JANSROP:世界で初めて国際商業航路の可能性提示,試験運行実施~2000.その後は停滞.


  中  国

資源輸入・北極圏の資源開発参入をうかがう.北極観測基地設置.砕氷船建造.

2010年に鉄鉱石,ガスコンデンセートを輸送.2011に継続.


  韓  国

フィンランドAker Arctic社への資本参加.砕氷船建造,北極研究着手.



◆近年のNSR試験運行プロジェクト
 < Sorry !! 本項,執筆中 >