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ティクシ(Tiksi),北極海の町

西のタイミル半島と東のノボシビルスク諸島にはさまれたラプテフ海の沿岸中央付近に大河レナ川が注ぎ込んでいる.その河口砂州の東にティクシがある.ティクシとはヤクート語で“船を繋ぐ場所“を意味し,1930年代に居住地として地図に載るようになった.サハ共和国の首都ヤクーツクから北へ約1,000km,その間にある町はジガンスク(ティクシから南に約600km)のみ,間には広大な人跡未踏のツンドラの原野が広がり,その果ての北緯7138分に位置する.冬は極夜,夏は白夜となり,1月~3月の月平均気温は-30度を下回る.1年のうち,海氷が融けて海面が空くのは7~9月をはさんだ3カ月間程度に限られる.

 Tksi 位置図  Tiksiの月別平均気温

 このように人跡からかけ離れたところに位置するも,ティクシは,サハ共和国におけるラプテフ海への出口であるとともに,米ソ冷戦時代には北極海の軍事拠点として,ソ連の船舶が北極海航路を通じて定期的に寄港していた.ティクシの港には,現在でも北極海航路NSRを通じて貨物船が,わずかながら寄港する.レナ川中流にある首都ヤクーツクとの間にも貨客船が運航し,流域にある小集落との間をつないでいる.またヤクーツクからの航空便(3.5時間)がある.しかしヤクーツクとの間を結ぶ通年の道路はなく,近郊に散在する集落間を結ぶ道がわずかにあるのみである.

ソ連時代は,国策によって高額の給与を保証され,多くの市民がティクシに居住していた.1989年の調査では約12,000人が居住していたが,その後の社会体制や経済環境の変化を背景に,2002年には約6千人,2006年には4千人程度にまで減少した.


Tiksi-1  Tiksi-2
ティクシの街,11月 (OPRF/IAMU;田上氏提供)

Tiksi-3   Tiksi-4
11月の北極海                    海底から引き揚げた原木

軍 関係のほかは,港湾・海上輸送,林業関連産業などが主な産業であり,レナ川河口部では漁業も営まれるものの,総じて産業・経済の衰退が著しい.北極海航路 の貨物輸送費が引き上げられ,海上輸送貨物量はソ連時代に比べて激減した.ツンドラの地にもかかわらず林業関連産業が営まれたのは,レナ川中流域では道路 による陸上輸送が困難であるため,伐採した原木や加工した製材を河口にまで運んで積み出したことによる.しかし近年では林業の衰退から,河口のティクシで の取扱量は激減し,盛んであった往時の名残で河口部の海底に沈んでいる原木を細々と引き上げている程度になっていた(2006).

 ティクシは今日でも国境警備隊の管理する区域であり,特別の許可がなければ入域することができない.それでも今日では,シベリア最果ての地を踏もうという各国の旅行者が訪れるようになっている.2003年の冬には,地元のグループ数名が,ヤクーツク~ティクシ間の原野1,900kmをスキーで走破するエクスペディションを成功させ,大きな話題になった.厳冬の原野でキャンプしながらのサバイバルツアーであった.冬に実施したのは,道中には無数の河川と広大な湿地帯があり,冬ならばこれらが凍結して踏破しやすくなるからと推測される.



OPRF: 海洋政策研究財団
IAMU: INTERNATIONAL ASSOCIATION OF MARITIME UNIVERSITIES